【摂食障害】摂食障害とはどんな病気?:摂食障害の種類や症状を理解しましょう。
- 2021.01.24
- 臨床心理士 / 公認心理師
- 摂食障害
摂食障害について
摂食障害とは、身体的な要因以外の心因によって「充分な食事摂取ができない」あるいは「食行動の変化がみられる」といった精神疾患のひとつです。
気持ち面での辛さはもちろんのこと、栄養状態の悪化などで身体的にも危険な状態になることが多いため、早期に適切な治療が行われることが必要な疾患といえます。
この記事では代表的な3つの摂食障害(神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害)についてそれぞれ解説していきます。
- 神経性やせ症(Anorexia Nervosa:AN)
- 神経性過食症(Bulimia Nervosa:BN)
- 過食性障害(Binge Eating Disorder:BED)
- (回避・制限性食物摂取症(Avoidant Restrictive Food Intake Disorder:ARFID))
摂食障害に関して詳しく知りたい方は、以下のサイトが非常に参考になります。
心理療法に関しては以下の記事をご参照ください。
心理学におけるエビデンスに基づく実践について(EBPP):EBM、EBP
神経性やせ症/神経性無食欲症について
まずは、DSM-5による診断基準を見てみましょう!
A.必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
B.有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
C.自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如
出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引|食行動障害および摂食障害群|神経性やせ症/神経性無食欲症
神経性やせ症の診断基準を簡単に説明すると、
A. 低体重(BMI≦18.5)であること
B. 肥満恐怖が存在し、食事制限や過剰な運動など体重を減らすための活動があること
C. 体重や体型に関する歪んだ認識(ボディイメージの障害)や体重や体型が自分の価値観になっていること
となります。
ただ単に「食事ができない病気」というわけではなく、「(食事によって)体重が増えること」に極端な恐怖を感じる精神疾患です。
一般的には、「拒食症」ともいわれています。
BMI=18.5以下の低体重であること、肥満恐怖があり体重を減らすための活動をしていること、ボディイメージの障害があること
神経性やせ症の症状にはどんなものがある?
肥満恐怖とは、「太ることが怖い」という気持ちのことです。体重が増えることや体型が変化することに対して強い恐怖を感じます。
とにかく体重が増えることが怖いため、その恐怖に抗うために「食事へのこだわり」と「過活動」があらわれてきます。
食事へのこだわり
炭水化物や油っこいものを避けるようになる
カロリーを過剰に気にするようになる
料理を自分でするようになったり、家族が料理をしているところに口を挟むようになる
この食事へのこだわりが、家族への影響が最も強いです(巻き込みといいます)
過活動
じっと座っていることができず、立ったり、動き回る
過剰なトレーニングを行う
お風呂に入る時間が長くなる
ボディイメージの障害とは、「どれほど体重が低く体型が細かったとしても、自分の体型が太く感じてしまう」という体重・体型への誤った認識です。
行動の変化
体重計に何度も乗って体重を確認する
自分の足や二の腕などをよく触って確認する
また、神経性やせ症は、以下の2つのタイプにわけられます。
- 摂食制限型:過去3ヶ月間、過食または排出行動がない
- 過食・排出型:過去3ヶ月間、過食または排出行動が繰り返される
過食とは、「ほとんどの人が同じ状況・時間で食べる量よりも明らかに多く食べる」ことをさします。
食事の合間にポテトチップスを一袋食べてしまうことは摂食障害の過食とはいえません。
典型的には、一定の時間(2時間以内)のなかで、パンを一斤食べてしまう、ケーキを1ホール食べてしまう、炊飯器のお米を全て食べてしまうなど、明らかに異常な量の食べ物を一度に食べてしまうことをさします。
拒食と過食は一見相反するように見えますが、実は非常に密接な関係があることを押さえておく必要があります。
排出行動(代償行動)とは、「体重を減らすことを目的として、自己誘発性嘔吐をしたり、下剤・利用薬・浣腸などを繰り返し使用する」ことをさします。
排出行動は、低栄養を導くだけでなく、身体のミネラルのバランス異常(電解質異常)を引き起こすため、早期の介入が必要です。
低体重による飢餓症候群
「お腹が空いてイライラする」「低血糖で手が震えたり、頭が回らず、そわそわしてくる」などは誰しも経験したことがあると思いますが、人は誰しも体重が減ってしまい低体重になると重大な身体症状や精神症状をもたらすことが明らかになっています。
この状態は飢餓症候群と呼ばれています。
飢餓症候群を示す研究として、第二次世界大戦時に行われた「ミネソタ・スタディ」という研究を紹介します。
この研究でわかったことは、たとえ健康な男性であっても、低体重による飢餓状態になると「食事へのこだわり」や「過食」といった摂食障害と似たような症状があらわれるということです。
つまり、低体重の飢餓症候群による摂食障害の症状は、気合や根性でどうにかなるレベルのものではなく、栄養状態を改善することが必要となってきます。
身体面での変化
低血圧
不整脈
貧血
胸やけ/胃もたれ
腹部膨満感(お腹が張る)
便秘-下痢
肝機能の悪化
骨粗鬆症
抜け毛が増える
乾燥
参考:佐藤・福土(2020). 摂食障害の合併症状, Jpn J Psychosom Med, 60(1), 26-30.
低体重が理由で過食が起きるということ
過食を主訴として、医療機関やカウンセラーのもとに訪れるクライエントさんも多いかと思いますが、ミネソタ・スタディでも示されているように、低体重による飢餓症候群の一種として過食が生じることがあります。
この場合の過食は、心理的な要因による過食とは異なり、飢餓の反動として身体が栄養を求めるために生じる生理学的な反応です。
摂食障害以外の精神症状
飢餓症候群では、摂食障害と似たような症状の他にも精神的な症状があらわれることがあります。
強迫症状、うつ症状、不眠症状が比較的あらわれやすく、重度の低体重になると幻覚といった重大な精神病症状があらわれることもあります。
「痩せたい気持ち」自体は誰でも持っているから病気ではないという反論
「痩せたい」「太りたくない」といった気持ち自体は、特に女性であれば誰しも持っていて不思議ではありません。「痩せたい気持ち」自体は病気ではないともいえます。
しかし、一般的には、「仕事」や「生活」に支障が出るほど『痩せていたい』と考えることは稀ですし、身体に悪い影響があるとわかっていても過剰に痩せようとはできません。
つまり、「痩せたい気持ち」「太りたくない気持ち」の程度が生活に支障を及ぼすほど強く、コントロールができなくなっているのが、摂食障害という病気の正体といえます。
また、低体重で栄養状態が悪くなることで飢餓症候群に陥るため、摂食障害の病理、身体症状やその他精神症状がどんどん悪化してしまい、自分では症状に気づくことができないようになってしまいます。そのため、家族や周囲の人による叱責はあまり意味をもたなくなります。
「食事」や「痩せること」で頭が常にいっぱいになってしまうので当事者自身も辛い状況であることを周囲は理解する必要があります。
神経性過食症/神経性大食症について
A. 反復する過食エピソード。過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
(1)他とはっきりと区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
(2)そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)
B. 体重の増加を防ぐための反復する不適切な代償行動。例えば、自己誘発性嘔吐;緩下剤、利尿薬、その他の医療品の乱用;絶食;過剰な運動など
C. 過食と不適切な代償行動がともに平均して3ヶ月間にわたって少なくとも週1回は起こっている。
D. 自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている。
出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引|食行動障害および摂食障害群|神経性過食症/神経性大食欲症
神経性過食症の診断基準を簡単に説明すると、
A. 過食があること(週1回以上)
B. 体重を減らすための活動(食事制限、過剰な運動、自己誘発性嘔吐、下剤の使用など)があること
D. 体重や体型が自分の価値観になっていること
となります。
神経性過食症とは、「慢性的に過食があり、体重や体型が変わることの恐怖から、排出行動(代償行動)を行う」疾患といえます。
肥満恐怖は診断基準には含まれてはいませんが、背景に肥満恐怖があるため、排出行動(代償行動)を行うともいえます。
過食があること、肥満恐怖があり体重を減らすための活動(自己誘発性嘔吐、下剤の使用、制限、運動)をしていること、ボディイメージの障害があること
神経性やせ症と神経性過食症の違いって何?
神経性やせ症と神経性過食症の一番大きな違いは、「低体重(BMI≦18.5)かどうか」です。
神経性やせ症の制限型では、食事摂取の制限や過活動のみで過食や嘔吐などの排出行動はないため、神経性過食症とはやや病態が異なりますが、過食・排出型と神経性過食症の間の差は体重がメインとなります。
それ以外の摂食障害の症状はほとんど差がありません。
臨床では、神経性やせ症と神経性過食症の病態を揺れ動くケースがたくさんあります。そのため、過食があるからといって全く別の病気というわけではなく、神経性やせ症と神経性過食症は一直線上にある摂食障害の病態と理解しておくのがいいでしょう。
また、体重が適性体重であっても、食行動が不安定(嘔吐をしている、絶食をしている、食事摂取量が少ない)なことによって、栄養状態が悪く、先ほど説明した飢餓症候群による過食が起きる場合が多いです。
一方で、神経性過食症で栄養状態が改善しているケースでは、先ほど説明した飢餓症候群による過食ではないこともあるため過食についても見極めには注意が必要です。
過食性障害について
A. 反復する過食エピソード。過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
(1)他とはっきりと区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
(2)そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)
B. 過食エピソードは、以下のうち3つ(またはそれ以上)のことと関連している。
(1)通常よりずっと速く食べる
(2)苦しいくらい満腹になるまで食べる
(3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる
(4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる
(5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分、または強い罪責感を感じる
C. 過食に関して明らかな苦痛が存在する。
D. その過食は平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は生じている
出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引|食行動障害および摂食障害群|過食性障害
過食性障害は、「明らかな過食があるが、排出行動(代償行動)がない」という摂食障害です。
この代償行動(食事制限、過度な運動、自己誘発性嘔吐、下剤の使用など)がないことが、神経性過食症との違いになります。そのため、神経性過食症と比べても体重が高い場合が多く、肥満や生活習慣病が合併してしまうことも少なくありません。
過食性障害の過食は飢餓症候群というよりも、過食が習慣化している場合や、ストレスへの対処法となっている場合が多いと考えられます。そのため、適切な食事指導はもちろんのこと、ストレスへの別の対処方法の獲得や環境を整えるなどの介入が有効となります。
摂食障害(AN、BN、 BED)に対してエビデンスの示されている心理療法
まとめ
この記事では、摂食障害のなかから神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害について紹介してきました。
その違いは概ね以下の通りになります。
また、他にも代表的な摂食障害として回避・制限性食物摂取症というものもありますが、こちらは別の記事で紹介したいと思います。
神経性やせ症・神経性過食症・過食性障害に関するエビデンスのある心理療法は以下の記事をどうぞ。
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