医療機関で働く公認心理師に必要な診療報酬制度(保険点数)の知識

医療機関で働く公認心理師に必要な診療報酬制度(保険点数)の知識

この記事では、医療機関で働くことを希望する心理職の方に向けて、心理職に関連する診療報酬についてまとめていきます。

 

この記事のまとめ

診療報酬の知識は医療機関に勤務する心理職にとっては必要な知識である。

 

令和2年度の診療報酬改定により、「小児特定疾患カウンセリング料」「ギャンブル依存症に対する集団精神療法」に公認心理師の項目が追加された。

 

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診療報酬とは医療機関が保険者から受け取る報酬のこと

  • 診療報酬とは、保険医療機関及び保険薬局が保険医療サービスに対する対価として保険者から受け取る報酬
  • 厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえ決定(厚生労働大臣告示)

引用:診療報酬制度について|https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken01/dl/01b.pdf

 

診療報酬とは、保険診療の際に医療行為などを行なった医療機関が受け取る合計金額をさしており、患者さんはこの一部を医療機関の窓口で支払い、残りは公的医療保険(健康保険・国民保険・後期高齢者医療制度など)で支払われます。

 

医療機関で行われる診察や検査などはそれぞれ細かく値段が決められています。その値段は診療報酬点数表に基づいて計算され、点数で表現されます。

 

診療報酬は、医療機関での人件費・医薬品費・医療機器/機材費など医療機関の運営や維持にあてられます。

 

日本医師会のサイトがすごくわかりやすいので、詳しく知りたい方は是非ご参照ください。

なるほど診療報酬!|国民のみなさまへ|日本医師会

 

医療機関で働く心理職は診療報酬の知識を身につけておく必要がある

 

心理職も病院で勤務する以上は病院職員なわけだから、病院を経営する基盤となる診療報酬の知識はもっておく必要があるよ。

 

  • 保険診療:公的医療保険(健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度)が適用される診療で、厚生労働省が決めた診療報酬の公的価格により、支払いは患者さんの自己負担金(3割)と公的医療保険(残りの7割)で支払われます。
  • 自由診療:公的医療保険(健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度)が適用されない診療で、診療を行う医療機関が価格を自由に決めることができ、支払いは患者さんの全額自己負担となります。

引用:診療報酬制度について|https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken01/dl/01b.pdf

 

1つの疾患に対する治療の中で、保険診療と自由診療を組み合わせることを混合診療といいますが、日本では平等な医療を提供するためにこの混合診療は原則禁止されています(違う疾患に対する医療サービスに関しては適応できることがあります)。

 

保険診療の範囲外の自由診療を行う場合は、

①保険診療の範囲外の医療サービスに対して病院側が患者さんに医療費を請求しない

②保険診療の範囲内の医療サービスであっても全額自己負担

のどちらかとなるルールです。

 

カウンセリングは診療報酬に含まれない

ここまで診療報酬に関する内容を記載してきた1番の理由はここにあります。

実は令和2年度の診療報酬改定までは、心理職によるカウンセリングの大多数が診療報酬に含まれていませんでした。また、心理療法に関しても心理職では算定が取れません。

 

そのため医療機関でカウンセリングを提供し料金を徴収することは混合診療に該当するため、多くの医療機関では心理職によるカウンセリングは無償で提供されています。

 

もちろん患者さん(クライエントさん)の利益を考えればそれでいいのですが、さきほど説明したように医療機関の職員である以上、機関の運営に必要な診療報酬の対象となることは重要なことです。

 

このような現状が、各医療機関では心理職を多く雇うことができず、患者さんに十分なカウンセリングの提供がなされていない要因ともなっています。

 

医療機関で行われているカウンセリングについては以下の記事をご参照ください。

 

心理職の国家資格化に伴って、今後は診療報酬上に心理職の項目が追加されていくことが期待されます。医療機関で勤務する心理職の方は特に情報に敏感になっておく必要があるでしょう。

 

ポイント

保険診療の診療報酬上に心理職の項目が追加されていくことは、医療機関での心理職の雇用拡大につながり、患者さん(クライエント)への十分なカウンセリングの提供にもつながっていく

 

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これまでの臨床心理技術者に関係する診療報酬

さて、ここからは心理職に関連する診療報酬についてまとめていきます。

 

臨床心理技術者から公認心理師へ

診療報酬では、心理学に関する専門職として、心理に関する専門課程を修了した者等を「臨床心理技術者」として、評価している。

引用:厚生労働省 個別事項(その7:その他の論点【続き】)平成29年12月13日

 

公認心理師資格ができるまでは「臨床心理技術者」という名称で、医療機関で心理職が算定を取ることができる項目がいくつか存在していました。

 

平成30年4月以降は、原則として診療報酬上の心理職の範囲が公認心理師に統一されました。

記事執筆時点(2020年12月末)では平成31年3月末まで従事していた臨床心理技術者公認心理師の受験資格保有者公認心理師の有資格者のいずれかに該当する者は、公認心理師とみなされます

公認心理師がある程度養成されてくれば、「臨床心理技術者」から「公認心理師」へと移行していくことになっています。

 

以下に「臨床心理技術者」に関連する診療報酬をまとめた表を載せます。

厚生労働省 個別事項(その7:その他の論点【続き】)平成29年12月13日臨床心理技術者に関連する主な診療報酬上の評価

 

上の項目に加えて、「入院集団精神療法」や「 通院集団精神療法」などの集団精神療法(精神科医師及び1名以上の精神保健福祉士または臨床心理技術者)や臨床心理・神経心理検査として心理検査も診療報酬点数表に記載されています。

 

D283 発達および知能検査

D284 人格検査

D285 認知機能検査およびその他の心理検査

 

心理検査に関しては別の記事でリストを載せたいと思います。

令和2年度(2020)診療報酬点数表(臨床心理・神経心理検査)

 

臨床心理技術者では認知療法・認知行動療法の診療報酬は算定が取れない

心理療法の技法の1つである認知行動療法も診療報酬点数表に記載がありますが、臨床心理技術者は対象となっておらず、医師と看護師のみが対象となります。

 

認知療法・認知行動療法(一部抜粋)

入院中の患者以外の患者について、認知療法・認知行動療法に習熟した医師が、一連の治療に関する計画を作成し、患者に説明を行った上で、認知療法・認知行動療法を行なった場合に、一連の治療について16回に限り算定する。

認知療法・認知行動療法とは、入院中の患者以外のうつ病等の気分障害強迫性障害社交不安障害パニック障害心的外傷後ストレス障害又は神経性過食症の患者に対して、認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって治療することを目的とした精神療法をいう。

 

(1)当該療法に関する研修を受講するなど当該療法に習熟した医師によって30分を超えて治療が行われた場合

(2)看護師により30分を超える面接が行われ、その後当該療法に習熟した医師により5分以上の面接が行われた場合

出典:厚生労働省|令和2年度診療報酬点数表|I003-2認知療法・認知行動療法より一部抜粋

 

保険診療での認知療法・認知行動療法の実施に際して、厚生労働省はそれぞれの疾患ごとにマニュアルを作成しています。

厚生労働省|認知行動療法マニュアル一覧

 

記事執筆時点では、公認心理師は診療報酬の対象に含まれていませんが、臨床研究に基づいて作成されたマニュアルであるため、心理職にとっても非常に有用なマニュアルとなっています。

一度は目を通した方がいいでしょう。

 

令和2年度(2020年度)時点で追加された公認心理師の診療報酬

公認心理師資格運用開始後の診療報酬の改定で、公認心理師に関する項目が2つ追加されました。

 

小児特定疾患カウンセリング料

小児特定疾患カウンセリングとは、小児科を標榜する保険医療機関において、入院中以外の者に対して、小児科医が療養上必要なカウンセリングを行った場合算定することができます。

 

対象となるのは15歳未満の気分障害、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体的要因に関連した行動症候群、心理的発達の障害又は小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害の患者

とされています。

 

さらに、令和2年度の改定によって、「登校拒否」「被虐待児」の項目が含まれ、公認心理師によるカウンセリングも対象として含まれることとなりました。

 

この改定によって、医師の指示が必要ですが、公認心理師単独でのカウンセリングが初めて診療報酬上で算定が取れるようになりました。

 

依存症専門医療機関におけるギャンブル依存症への認知行動療法

依存症専門医療機関限定ではありますが、ギャンブル依存症に対する集団療法(認知行動療法をベースとした)も追加されています。

 

引用文献:08 令和2年度診療報酬改定の概要(精神医療) – 厚生労働省

まとめ

この記事では心理職に関連する診療報酬についてまとめました。

 

診療報酬に関する知識は、医療機関で働く心理職は身につけておくべきもの。

公認心理師資格ができたことにより、今後、診療報酬上に公認心理師の項目が追加されていくことが期待される。

令和2年度の改定により、これまでの「臨床心理技術職」に関連する項目(集団精神療法や心理検査)に加えて、「小児科特定疾患カウンセリング料」や「ギャンブル依存症への集団精神療法」が追加された。