【3月は自殺対策強化月間】自殺予防のために自殺の対人関係理論について知りましょう!

厚生労働省自殺対策室では、「自殺対策基本法」に基づき、
「自殺対策強化月間」:3月
と定めて、自殺予防のための啓発活動を推進しています。
「自殺予防」の観点は、どの領域で活躍する臨床心理士・公認心理師にとっても切り離せない重要な内容となりますね。
もうすぐ3月ということもあり、今回は自殺のリスク因子や自殺を説明する理論について記事にまとめました!
自殺のリスク因子(危険因子)と保護因子について
自殺予防に関する手引きはいくつか存在しますが、どの手引きにも共通している自殺のリスク因子(自殺を生じやすくするような要因)を紹介します。
- 過去の自殺企図歴(自殺未遂をしたことがある)
- 自傷行為(リストカット、過量服薬)
- アルコール・薬物の乱用
- 精神疾患の存在(うつ病、摂食障害、境界性人格障害、トラウマ関連)
- 慢性疾患、慢性的な疼痛、進行性の疾患
- 孤立感、絶望感
- 支援につながることができていない
- 経済的な破綻
- 自殺に関する情報に曝されること(インターネットやメディアによる報道も含む)
他にもいくつかありますが、代表的なものは上記のものとなります。
反対に保護因子(自殺を生じにくくする要因)としては、
- 家族やコミュニティの支援に対する強い結びつき
- 自殺を妨げるような個人的・社会的・文化的・宗教的な信条
- 自殺手段へのアクセスの制限
- 支援を求めることができること
などがあります。
「自殺」のリスク因子と保護因子の知識を持っておくことは、自殺リスクを適切にアセスメントすることに繋がります。
日本精神神経学会|精神保健に関する委員会編著|日常臨床における自殺予防の手引き|平成25年3月版
自殺の対人関係理論について
自殺の対人関係理論は、所属感の減弱、負担感の知覚、身についた自殺の潜在能力という三つの要素が高まった際に自殺が生じるとするものである。
自殺の対人関係理論とは、上のイラストにあるように、自殺念慮(自殺願望)や自殺企図(自殺に向けた行動化)が生じるメカニズムを「自殺潜在能力」「所属感の減弱」「負担感の知覚」という3つの要素で説明しているモデルになります。
【ポイント】
- 自殺念慮(自殺したいという願望)と自殺企図(自殺に向けた行動化)をわけて捉えている。
- 自殺念慮は「所属感の減弱」と「負担感の知覚」がどちらも重なることで生じる。
- 自殺念慮に「自殺潜在能力」が加わった時に自殺企図(行動化)が起きる。
自殺潜在能力(Acquired capability for suicide)
人が自殺行動を起こすのには、自殺に対する心理的なハードルが下がるプロセスが必要であるという。つまり、自殺願望を行動に移すには、死に対する恐怖感が減弱したり、自分の身体を傷つけることに対して慣れたり、身体的疼痛に対して鈍感になったりするという、一種の準備状態が必要なのである。
出典:松本俊彦(2015). もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応
自殺潜在能力は、「自殺に対する一種の準備状態」を意味しており、「死や身体の痛みに対する抵抗感の低さ/慣れ」をあらわしています。
以下の行動が自殺潜在能力を高めるとされています。
- 過去の自殺企図歴(特に2回以上)
- 非致死的な自傷行為(軽傷のリストカット)
- 自殺以外の意図から故意に自分の健康を害する行動(拒食・過食・自己誘発性嘔吐)
- アルコール/薬物の乱用
- 慢性的な身体の痛みを抱える経験
- 激しい身体接触を伴うスポーツ(格闘技など)の経験
- 暴力被害・加害の経験
- 他者の死・身体的な損傷・痛みの体験を目撃したり遭遇すること
また、自殺潜在能力は、衝動性の高さ(気質的/アルコール・薬物などによる酩酊)の影響も受けるとされています。
ここまでを見てみると、自殺潜在能力を高める要因=自殺のリスク因子という関係性が見えてきます。
所属感の減弱(thwarted belongingness)
現実に人とのつながりがなく、孤立している状況を意味するとともに、「自分の居場所がない」、あるいは「誰も自分を必要としている人などいない」という主観的な感覚をも含んでいる。
出典:松本俊彦(2015). もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応
所属感の減弱は、「主観的な孤独感や疎外感、あるいは、実際の対人関係・社会関係での孤立」を意味します。
一見、周囲からみると恵まれた環境にいるように見えていたとしても、
と本人が感じていればこの所属感は下がっていきます。
負担感の知覚(perceived burdensomeness)
「自分が生きていることが周囲の迷惑になっている」、あるいは、「自分がいない方が周囲は幸せになれる」という認識を指す。これが自身の存在に対する羞恥の感情や罪悪感、激しい攻撃性を生じさせる。
出典:松本俊彦(2015). もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応
負担感の知覚は、「自分が他人の迷惑となっていると考えて、罪悪感・羞恥心・自己嫌悪を抱くこと」を意味します。
自分の存在を否定することにつながる感覚ともいえます。
経済的に困窮している場合や、「うつ病」を含めたさまざまな精神疾患に罹患した方は、この「周囲に負担をかけている」感覚を抱くことが多いかもしれません。
まとめ:自殺の対人関係理論

上のイラストは、若年者の自殺対策のあり方に関する報告(平成27年3月)の第3章総論から引用したものですが、自殺の対人関係理論に「絶望感」を追加したモデル(van orden et al, 2010)を翻訳・一部改編したものになります。
自殺の対人関係理論はいくつか実証的な研究も進んできており、現時点では「自殺」の心理的なメカニズムを説明する最有力な理論の1つといわれています。
確かに、最初に説明したような自殺のリスク因子のほとんどが、この自殺の対人関係理論で説明可能になります。
また、「自殺潜在能力(≒自殺のリスク因子)」は、既にその状態であることや、介入が難しいものも多く、介入が奏功するまでに長く時間がかかることが予想されます。
そのため、ファーストラインの介入としては「所属感の減弱」や「負担感の知覚」を和らげるような介入をすることが求められますし、自殺予防対策としてもこれらの観点を意識することが重要でしょう。
【この記事のまとめ】
- 「自殺の対人関係理論」では、「所属感の減弱」と「負担感の知覚」によって自殺念慮が生じ、そこに自殺潜在能力(≒自殺のリスク因子)が重なることによって自殺企図(行動化)につながると理解する。
- 自殺潜在能力(≒自殺のリスク因子)は予防が難しい要因が多く、介入にも時間がかかる
- ファーストラインの介入や自殺予防対策では、「所属感の減弱」「負担感の知覚」を解消するような介入や取り組みが求められる。
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