公認心理師資格試験 過去問解説 問18 健康・医療に関する心理学「心身症」

公認心理師資格試験 過去問解説 問18 健康・医療に関する心理学「心身症」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

公認心理師試験の勉強方法はこちら💁‍♀️

【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

 

Advertisement

 

【問18】健康・医療に関する心理学「心身症」

問18 心身症に関連した概念について、正しいものを1つ選べ。

① 慢性疼痛患者には、抗うつ剤は無効である。

② 結婚や進学は、気管支喘息の増悪に関与しない。

③ タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍のリスク要因である。

④ 本態性高血圧症が心理的ストレスで悪化している場合は、心身症と考える。

⑤ アレキシサイミア<失感情症>とは、以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態を意味する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ④

 

④ 本態性高血圧症が心理的ストレスで悪化している場合は、心身症と考える。

となります。

 

心身症について

心身症(psychosomatic disease)とは❓

心身症の定義に関しては、日本心身医学会が1991年に「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」との統一的な見解を発表している。

出典:心理学辞典|有斐閣

つまり、「何らかの身体疾患に罹患している状態で、その身体症状の発症や経過に心理的な要因が関わっているが、他の精神疾患では説明できない状態心身症といいます。

 

心身症の理解として大切なのは、心理社会的な要因も視野に入れ介入を行いますが、あくまでベースは身体疾患で診断も確定できており、身体疾患の治療も必要という部分ですね。

 

日本心身医学会による心身医学の新しい診療指針(1991)によれば、治療の基本的な方針は以下の通りとされています。

  • 一般内科ないし臨床各科の身体療法
  • 生活指導
  • 面接による心理療法(カウンセリング)
  • 薬物療法
  • ソーシャル・ケースワーク

(以下、略)

(出典:日本心身医学会教育研修委員会(1991). 心身医学の新しい診療指針, 心身医学, 31(7), 537-573.より一部抜粋)

 

心身症の病態を考えることができる疾患の例
  •  気管支喘息(呼吸器系)
  • 本態性高血圧症(循環器系)
  • 冠動脈疾患:狭心症・心筋梗塞(循環器系)
  • 胃・十二脂腸潰瘍(消化器系)
  • 潰瘍性大腸炎(消化器系)
  • 過敏性腸症候群(消化器系)
  • 偏頭痛(神経・筋肉系)
  • 慢性疼痛(神経・筋肉系)
  • 起立性調節障害(小児科領域)
  • 慢性蕁麻疹(皮膚科領域)
  • アトピー性皮膚炎(皮膚科領域)

参考サイト:心身症|脳科学辞典

 

代表的な疾患を挙げましたが、ここで挙げた以外にも様々な疾患が心身症と考えることが可能です。

 

一方で、心身症と考えることができる疾患に罹患している方が全て心身症に該当するわけではないということも理解しておく必要があります。

 

とはいえ、上で挙げたような疾患は身体症状が心理・社会的なストレスによって維持されやすく、身体症状による問題が心理・社会的なストレスに繋がるなど悪循環になりやすいといえ、心理・社会的な視点ももって介入が行われることが望ましいといえます。

 

問題の選択肢についてですが、「④本態性高血圧症が心理的ストレスで悪化している場合は、心身症と考える。」は、本態性高血圧症は心身症と考えることができる疾患ですので、心理的ストレスの関与が強いと考えられる場合は心身症と考えて差し支えないでしょう。

そのため、選択肢は正しいといえます。



 

残りの選択肢について見ていきましょう!

慢性疼痛患者に抗うつ剤は効果があるか

① 慢性疼痛患者には、抗うつ剤は無効である。

この選択肢を検討するために、慢性疼痛治療ガイドラインを見ていきましょう。

 

ガイドライン上に示されている薬剤の中から抗うつ剤を抜粋してみましょう。

(左側が成分名、右側が代表的な薬剤名になります)

 

三環系抗うつ薬
アミトリプチリン トリプタノール
イミプラミン トフラニール
ノルトリプチリン ノリトレン
クロミプラミン アナフラニール

 

四環系抗うつ薬
マプロチリン ルジオミール

 

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
パロキセチン パキシル
エスシタロプラム レクサプロ
セルトラリン ジェイゾロフト
フルボキサミン ルボックス、デプロメール

 

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
デュロキセチン サインバルタ
ミルナシプラン トレドミン
ベンラファキシン イフェクサー

 

その他抗うつ薬
ミルタザピン レメロン、リフレックス
トラゾドン レスリン

 

特にデュロキセチン(サインバルタ)の有効性が無作為化比較試験(RCT)によって示されており、デュロキセチン含むSNRIが慢性疼痛に対する薬物療法の第一選択肢となっています。

*詳細は慢性疼痛治療ガイドラインを参照ください!

 

そのため、選択肢「① 慢性疼痛患者には、抗うつ剤は無効である」は、厳密な研究の結果有効性が示されているため不適当といえます。

 

ライフイベントによるストレスモデル

② 結婚や進学は、気管支喘息の増悪に関与しない。

先ほど心身症と考えることができる疾患について代表例を挙げましたが、気管支喘息はそのなかのひとつとされています。

 

心身症では、身体疾患が心理・社会的な要因によって発症あるいは維持されている状態(悪化も含む)のことをいいますので、この選択肢を検討するために重要なことは、結婚や進学が心理・社会的な要因に含まれるかどうかということになりますね。

 

そこで知っておくべき知識として、Holms, T(ホームズ)とRahe, R(レイ)による生活上の出来事尺度(ライフイベント)があります。

ホームズらは、「離婚」、「結婚」、「入学」、「卒業」などの生活上の変化や、「配偶者の死亡」、「妊娠」などの家族成員の誕生や死、「法律違反」、「借金」などの大きな失敗、「転居」などの環境変化といった、現在の生活様式に大きな変化を要求する出来事を生活事件と定義し、これらの生活事件と個人の健康・病気との関連性を追求した。

出典:心理臨床大事典|培風館

 

この出来事尺度は社会的再適応評価尺度(Social ReattuStrrlent Rating Scale:SRRS)として使われることが多いです。

 

それぞれのライフイベントには、Life Change Unit Score(LCU得点)という数値が割り当てられており、「結婚」を50としたときに他の出来事が相対的に何点がを示すもので、このLCU得点が高いライフイベントの経験が多いほど、ストレスの程度が強いとされています。

 

上に引用した文章にもあるように、「結婚」や「進学」はLCU得点が比較的高いライフイベントであるため、これらの出来事が気管支喘息を悪化させる可能性は十分考えられます。

 

そのため、選択肢② 「結婚や進学は、気管支喘息の増悪に関与しない」は不適当といえます。

 

タイプA性格行動パターン

③ タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍のリスク要因である。

 

タイプA行動パターン(type A behavior pattern)とは

 Friedman, M(フリードマン)Rosenman, R. H(ローゼンマン)が虚血性心疾患の患者には、ある共通した特徴があることに気づき、これをタイプA行動パターンと名づけた。これは、性格面では競争的、野心的、精力的であり、行動面では機敏、請求で常に時間に追われて切迫感をもち、多くの仕事に巻き込まれており、身体面では、高血圧や高脂血症が多いというものである。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

タイプA行動パターンを評価する尺度としては、面接法であるStructured Interview(SI)や質問紙法のJenkins Activity Survey(JAS)、Japanese Coronary Prone Behavior Scale(JCBS)などがあります。

 

【参考文献】

山崎・大芦・塚田(1994). タイプA行動パターン評価尺度の作成の試みとその検討. 日本保健医療行動科学会年報, 9(7), 112-124.

 

タイプA行動パターンの特徴としては、競争的で仕事熱心ですが、常に切迫感がある話し方や接し方をし、緊張感や劣等感が強いなどといった特徴があります。

 

タイプA行動パターンは虚血性心疾患や高血圧、高脂血症のリスク因子であり、消化性潰瘍のリスク因子とは考えられていないため、選択肢③「タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍のリスク要因である」は正答とはいえません。

 

アレキシサイミア

⑤ アレキシサイミア<失感情症>とは、以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態を意味する。

 

アレキシサイミア(alexithymia)とは?

シフオネス(Sifneos, P. E.)によって提唱された心身症の病状を説明する概念の一つで、a(=lack)、lexia(=word)、thymos(=mood or emotion)というギリシア語に由来する言葉である。

(中略)

アレキシサイミアの特徴としては、①想像力や空想力に乏しいこと、②自分の感情や葛藤状態に対する言語化ができず、情動の体験と表現が制限されていること、③事実関係をくどくどと述べるが、それに感情の表現が伴わないこと、④対人関係は一般に貧困で、機械的な対応が多く、面接者とのコミュニケーションも困難なことなどがあげられる。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

アレキシサイミアとは、シフオネス医師が心身症の患者さんに多いことを見出した特徴で、「感情を表現する言葉を見つけることが難しい状態」を指し、日本では「失感情症」ともいわれます。

 

感情を失った状態」というわけではなく、感情はありますが「感情に気づけない状態」にある自己認識の問題という部分がポイントです。

 

では、選択肢を見ていきましょう。

 

選択肢⑤「 アレキシサイミア<失感情症>とは、以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態を意味する」はアレキシサイミアの説明とは合致しないため、不適当となります。

 

「以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態」は、うつ病の中心的な症状であるアンヘドニア(快感消失)の説明ですね。



 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問18は、健康・医療に関する心理学「心身症」に関する問題でした。

 

心身症を中心として、関連する概念が網羅的に出てくる問題であるため、試験勉強には非常に良問といえるでしょう。
臨床現場、特に児童・精神科の領域でも頻出のためキーワードの知識はおさえておきましょう。

キーワードは以下の通りです。

キーワード・心身症
・タイプA型行動パターン
・アレキシサイミア