第6回公認心理師試験・午前問27は、子育て支援・児童虐待防止におけるポピュレーションアプローチの具体例を問う問題です。正答は⑤ 乳児家庭全戸訪問事業です。ポイントは、既に高リスクと判断された一部の家庭だけでなく、対象となる集団全体に広く働きかける取組を見分けることです。
- 実際の問題文
- 問題文の読み解き
- 正答⑤ 乳児家庭全戸訪問事業
- ポピュレーションアプローチとは
- ハイリスクアプローチとの違い
- ① 一時保護が誤りである理由
- ② 保育所等訪問支援が誤りである理由
- ③ 養育支援訪問事業が誤りである理由
- ④ 子育て短期支援事業が誤りである理由
- 乳児家庭全戸訪問事業で行うこと
- 児童虐待防止との関係
- ポピュレーションとハイリスクを組み合わせる
- 試験での見分け方
- ユニバーサル・選択的・指示的予防との対応
- 全戸訪問から重点支援へつなぐ流れ
- ポピュレーションアプローチの利点
- 全戸訪問の限界と注意点
- 現行の行政体系を読むときの注意
- 公認心理師に求められる役割
- 制度名のキーワードで見分ける
- 支援につながらない家庭への視点
- まとめ
- 参考文献・資料
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実際の問題文
問27 子育て支援や児童虐待防止を目的に据えたポピュレーションアプローチの具体例として、最も適切なものを1つ選べ。
① 一時保護
② 保育所等訪問支援
③ 養育支援訪問事業
④ 子育て短期支援事業
⑤ 乳児家庭全戸訪問事業
問題文の読み解き
この問題では、各制度の細かい対象条件を完全に暗記していなくても、「ポピュレーションアプローチとは何か」を理解していれば判断できます。ポピュレーションアプローチは、高リスク者だけを選んで支援するのではなく、対象となる集団全体に働きかけ、集団全体のリスクを下げる考え方です。
選択肢の中で「全戸」という言葉が入っている⑤は、広い対象へ働きかける性質が最も明確です。
正答⑤ 乳児家庭全戸訪問事業
乳児家庭全戸訪問事業、いわゆる「こんにちは赤ちゃん事業」は、生後4か月までの乳児のいる家庭を原則として広く訪問し、子育ての孤立化を防ぎ、悩みの傾聴、情報提供、養育環境の把握、必要な支援への接続を行う事業です。
厚生労働省資料では、乳児家庭全戸訪問事業がポピュレーションアプローチとして位置づけられ、その後、特に支援が必要な家庭には養育支援訪問事業など、より重点的な支援へつなぐ構造が示されています。
ポピュレーションアプローチとは
集団全体へ働きかける
ポピュレーションアプローチは、まだ問題が顕在化していない人も含め、広い対象に働きかけます。対象集団全体の平均的なリスクを少し下げることで、社会全体の問題発生を減らすことを目指します。
早期の接点を作る
子育て支援では、困っている家庭ほど自ら相談につながりにくいことがあります。全戸訪問のように行政側から広く接点を作ることで、支援ニーズを早期に把握しやすくなります。
スクリーニングだけが目的ではない
訪問はリスク家庭を探すだけの仕組みではありません。保護者の話を聞き、地域の子育て情報を伝え、孤立を防ぎ、必要に応じて支援につなぐこと自体が重要です。
ハイリスクアプローチとの違い
ハイリスクアプローチは、既に高いリスクを持つ人や特定の支援ニーズがある人に重点的に介入する方法です。たとえば、虐待リスクが高い、養育困難が明らか、特定の障害や疾病があるなど、対象を絞って支援します。
一方、ポピュレーションアプローチは広く対象を設定します。ただし実際の支援では両者は対立するものではなく、広く接点を作った後に必要な家庭へ重点支援を行うという形で接続します。
① 一時保護が誤りである理由
一時保護は、児童の安全確保などのために必要に応じて行われる個別的・集中的な対応です。既に危機や高い支援ニーズがあるケースへの対応であり、集団全体に広く働きかけるポピュレーションアプローチではありません。
② 保育所等訪問支援が誤りである理由
保育所等訪問支援は、障害のある児童などが集団生活に適応できるよう、保育所や学校等を訪問して専門的に支援する制度です。対象は特定の支援ニーズを持つ児童であり、すべての家庭や児童を対象とする取組ではありません。
③ 養育支援訪問事業が誤りである理由
養育支援訪問事業は、養育支援が特に必要と判断された家庭を訪問し、養育に関する指導・助言などを行う事業です。対象が「特に支援が必要な家庭」に絞られるため、ポピュレーションアプローチよりハイリスクアプローチに近い位置づけです。
ここは国家試験で非常に重要な区別です。「乳児家庭全戸訪問事業=広く接点を作る」「養育支援訪問事業=必要性が高い家庭へ重点支援」と対にして覚えると整理しやすくなります。
④ 子育て短期支援事業が誤りである理由
子育て短期支援事業は、保護者の疾病、疲労、育児不安などにより一時的に家庭での養育が困難となった場合に、児童を一定期間養育・保護するなどの支援を行う事業です。これも特定のニーズが生じた家庭への支援であり、集団全体へ広く働きかける取組ではありません。
乳児家庭全戸訪問事業で行うこと
訪問では、保護者の不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供を行い、親子の心身の状況や養育環境を把握します。必要があれば、地域の母子保健、子育て支援、福祉、医療などへつなぎます。
「全戸訪問」という名称から、単に訪問件数を増やす事業と理解するのではなく、孤立予防と支援接続の入口として理解することが重要です。
児童虐待防止との関係
児童虐待の背景には、保護者の孤立、経済的困難、育児負担、家族関係、メンタルヘルス、子どもの特性など複数の要因が重なることがあります。問題が深刻化する前に、広く家庭と接点を持つことには予防的な意味があります。
ただし、訪問だけで虐待リスクを評価・解決できるわけではありません。安全上の懸念がある場合は、こども家庭センター、児童相談所、医療機関など必要な機関との連携が必要です。
ポピュレーションとハイリスクを組み合わせる
実際の行政施策では、広く支援を届ける仕組みと、ニーズが高い家庭への重点支援を組み合わせます。乳児家庭全戸訪問事業で広く接点を作り、必要な家庭を養育支援訪問事業等へつなぐ流れは、その典型です。
「どちらか一方が正しい」のではなく、支援の層を重ねることが重要です。
試験での見分け方
「全戸」「全員」「広く」が手掛かり
対象集団全体に働きかける制度は、ポピュレーションアプローチの候補になります。
「支援が必要と判断された家庭」はハイリスク寄り
事前に対象を絞り込む制度は、ハイリスクアプローチに近いと考えます。
危機対応はポピュレーションではない
一時保護のような安全確保のための個別対応は、集団全体への予防的介入とは区別します。
ユニバーサル・選択的・指示的予防との対応
予防科学では、対象の絞り方によって、集団全体を対象とするユニバーサルな介入、リスクが高い集団を対象とする選択的介入、既に兆候が見られる人を対象とする指示的介入という整理があります。ポピュレーションアプローチは、こうした広い対象への予防と考えると理解しやすくなります。
乳児家庭全戸訪問事業は、特定の問題が確認された家庭だけを対象にするのではなく、乳児のいる家庭へ広く接点を作るため、ユニバーサルな入口としての性格が強い事業です。
全戸訪問から重点支援へつなぐ流れ
ポピュレーションアプローチの強みは、広く支援を届けることだけではありません。全戸訪問の中で、保護者の孤立、育児負担、経済的困難、家族関係、子どもの健康状態などを把握し、必要に応じてより専門的な支援へつなげることができます。
つまり、乳児家庭全戸訪問事業と養育支援訪問事業は競合する制度ではなく、前者が広い入口、後者がより重点的な支援という形で連続しています。この層構造を理解すると③と⑤を区別しやすくなります。
ポピュレーションアプローチの利点
対象を高リスク家庭だけに限定すると、まだ問題が表面化していない家庭や、自ら相談を求めにくい家庭へ支援が届きにくくなります。全戸を対象にすることで、「困っている人だけが利用するサービス」というスティグマを弱め、相談への心理的ハードルを下げる効果も期待できます。
また、保護者に子育て情報を届け、地域の相談先を知ってもらうことで、問題が深刻になる前に援助要請しやすくなります。
全戸訪問の限界と注意点
「全戸訪問だから虐待を防げる」と単純化することはできません。訪問できない家庭、短時間では把握しにくい問題、支援を拒否する家庭などもあり得ます。訪問時の情報だけで安全性を断定せず、その後の継続的な関係や他機関との情報共有が必要になることがあります。
また、保護者を監視対象として扱うと支援関係が作りにくくなります。支援の目的や情報の扱いを説明し、必要な場合には適切な専門機関へつなぐことが重要です。
現行の行政体系を読むときの注意
公認心理師試験では、出題当時の制度名称や所管に基づいて問われます。その後、こども家庭庁の設置など行政体系が変化しているため、現在の資料を読むときは「試験当時の制度」と「現在の所管」を区別します。
ただし、乳児家庭全戸訪問事業が広い対象へ訪問し、必要な支援につなぐという基本的な考え方は、本問の理解にそのまま使えます。
公認心理師に求められる役割
心理職が母子保健や子育て支援に関わる場合、虐待の有無だけを確認するのではなく、保護者の心理状態、養育負担、家族関係、社会的孤立、子どもの発達などを多面的に把握します。必要に応じて保健師、社会福祉職、医師、保育・教育機関、児童相談所などと連携します。
ポピュレーションアプローチの場では、個別診断を行うことより、広く支援へ接続できる仕組みを作り、重点支援が必要な人を適切なサービスへつなぐことが重要です。
制度名のキーワードで見分ける
本問では「全戸」という語が大きな手掛かりです。一方、「一時保護」「支援が必要な家庭」「特定の障害児」「一時的に養育困難」といった表現は、対象が既に限定されていることを示します。
ただし、キーワード暗記だけでなく、誰を対象に、どの段階で、何を目的に行う制度かを理解しておくと、制度名が変わる問題にも対応しやすくなります。
支援につながらない家庭への視点
全戸訪問では、訪問できなかった家庭を単に「拒否」と扱わず、連絡方法、生活状況、言語、心理的負担など背景を検討します。接点が作れないこと自体が支援上の重要な情報になる場合があります。
まとめ
第6回午前問27の正答は⑤ 乳児家庭全戸訪問事業です。ポピュレーションアプローチは、特定の高リスク者だけでなく、対象集団全体へ広く働きかける方法です。乳児家庭全戸訪問事業は原則として乳児のいる家庭へ広く訪問し、孤立予防、情報提供、ニーズ把握、支援接続を行うため、この考え方の具体例として最も適切です。


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